第3章 媚薬 ※壬
差し出された白い塊の正体は包子。まだホカホカしている。
姐さんが手にとって割った瞬間、独特な匂いがした。
帝のお渡りの時に食べるやつだ。
「翡翠宮の外でなら食べて平気だよね?」
「まぁ……入ってるのは毒ではありません。」
「食べなくても分かるのか?……では何が入っているんだ?」
「催淫剤ですね。」
「しかもちょっと多めに盛ってるよね。」
腹黒似非天女の顔が引きつった。胡散臭い笑顔より素に近い顔になったのを見て、こっちの方が人間らしくて良いのにな…と思う。
が、腹黒黒さを思い出しやっぱり無し無しと訂正を入れた。
「健康には害はないので、お持ち帰りください。美味しく頂いてください。」
「いや、貰った相手を考えると素直に食べれないもんだろ」
腹黒似非天女は前髪をクシャリとかきあげると溜め息をついた。
「今夜あたり訪問があるかもしれませんね。」
「お風呂入った後に食べた方が良いと思いますよー。」
「……。」
嫌そうな顔をしているが、驚かないあたり想像していた…のだろうか。
分かっていて……姐さんに食べさせようとした?
「姐さん……これ、アレにブチ込んで外に放り投げても?」
「待て。相手の楽しみは取ってやるな。」
姐さんの手からそっと割られた包子を取り、ゆらりと立ち上がる。
が、姐さんに止められてしまったので、渋々腰を下ろす。
「食べるわけないだろ。」
「ほぅ?好みの美女ではなかったと?なかなか好みがうるさい…」
「はぁ……くれたのは男だった。」
「なるほど?体力が心配?…強壮剤の追加盛り??」
「要らないし食べないから!食べること前提で話すな!」
「なら姐さんに食べさせようとするな変態。」
「なっ……!」
ポンポンとテンポ良く会話している壬氏と に玉葉妃は鈴の鳴るような声で笑った。ピタリと2人の会話も止まる。一瞬決まりが悪そうにした壬氏は次の瞬間には何時もの胡散臭い顔を取り戻した。これだから腹黒似非天女なんだっての。
はとっととこの場から辞するためにさっと一礼して踵を返した。
「ちょっと待て。」
……チッ。