第1章 後宮下女
「呼び出し、ですか?」
洗濯籠を抱えた と猫猫は宦官に呼び止められた。
中央にある宮官長のところに行かなくてhならないらしい。
なんか悪いことしたかなぁ...
宮官とは、後宮を大きく分ける三部門の一つであり、下位に位置する女官のことをいう。他の二つ、部屋持ちの妃たちは内官、宦官は内侍省にあたる。
「何だろうね、姐さん」
「人手が欲しいのか...?」
宦官は他の下女にも声をかけており、呼び出しを食らったのが自分達だけではないことを知る。
持っていた洗濯物を届けると、宦官のあとをついていった。
宮官長の部屋がある棟は、普段行き来している後宮の外れ..とは違い、中級妃の棟よりも豪奢な造りである。欄干の一つ一つに彫り物が施されており、朱の柱には鮮やかな龍が巻き付いている。
面倒な仕事だったら嫌だなぁ...
促うながされるまま部屋の中に入ると、前に大きな机が置かれているだけで存外殺風景な部屋だった。そこには既に集められていた下女達がいる。
不安、期待、興奮の入り交じった表情を浮かべとり、その視線は一転に集中している。
「はい、ここまで。おまえ達は仕事に戻って良いぞ。」
と猫猫が部屋には行ったところで区切られてしまった。
部屋のなかには十数人ほどの下女がいるが、部屋の広さ的にまだまだ余裕はある。
少数でやらされる仕事...ってあまり良いことじゃない気がするんだよな...
少人数に絞られた仕事は、これまで長くはない人生を歩んできた経験上、蜥蜴の尻尾みたいなことになることが多い。
しかも集められているのは、下位の下女。切りたい放題だ。居なくても痛くも痒くもなさそうである。
あーやだやだ...なにさせる気だか...とりあえず、姐さんだけは守らないと...
そういえば、回りの下女が頬を染めて一点を見つめていることを思い出した。
この部屋に入ったときから糊でくっ付けられたかのように見つめ続けている。
その視線の先を追うと...
「女...?」
「んなわけ...あんなゴツい、筋骨粒々な女なんてゴメンだわ姐さん。女装趣味でしょ。」
「あ、宦官の服着てる。」
「あ?...あ、あ〜...噂の天女様?」
流石にお互いにしか聞こえない程度の極々小さな声でやり取りをする。