第1章 後宮下女
夕餉の際に黒い帯が配られ、東宮が身罷られたのを知った。
「...間に合わなかったのかな...意味がなかったのかな...」
「...さぁ...な。」
死なせたくなかった。元気になって欲しかった。
端女の食事は、本来そんなに多くない。雑穀と汁物、時々小鉢一品程度だ。
ほとんど肉も入っておらず、足りないと思う人が多い中、 少食のと猫猫には丁度良い量だった。
しかし、今日はそれでも多く感じる。
全く箸が進まず、姐さんにあげようと思ってそっと椀を近づけたが、首を横に振られたので、隣にいた同僚...にあげると喜んで食べてくれた
は汁物をちびちび飲みながら考えに耽る。
東宮の呪いー病ーの原因に気付いていた。
あれは、美をとことん追求し己を高めていく妓楼の高級遊女達も使っていた。
薄暗い蝋燭の灯りのもとでは、普通の肌はくすんで黒く見えてしまう。美しさを売りにする妓女は、少しでも美しく見えるように努力するのだ。
もちろん、妓楼でもあの白粉は人気があった。
そこら辺の農民とは比べ物にならないほどの稼ぎがあるので、高級な白粉でも手に入れることができるのだ。
顔面から胸元まで、何よりも美しく肌を白くするそれは、もちろん妓女の体も蝕んでいった。
お義父さんが「使ってはダメだよ」と何度注意しても、使い続ける者はいた。
もちろん、使い続ければ毒をずっと煽っているのと一緒。
は衰弱して死んでいく妓女をお義父さんと猫猫のもとで何人も見てきた。美を求めた結果、結局手に入らずに儚くなっていったのだ。
少しでも伝わる可能性があるのならと、そこら辺の枝に姐さんと警告文を認めて火の元に届けたが...所詮は出所が分からない悪戯扱いをされてしまったのか...
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喪が明けた頃、玉葉妃の噂を聞いた。
東宮を失い傷心の帝は、生き残った公主を慈しんでいるらしい。
同じく我が子を失った梨花妃のもとに通う話は聞こえない。
これだから男は…今、梨花妃に寄り添わないでどうするの…
生む立場ではないので完全には寄り添えないかもしれないが、女性が子を失う精神的な負担は、そっとしておけば時間が勝手に解決してくれる野郎共の小さな失敗とは別もの。
もっと心を梨花妃に向けてあげて欲しい…
やっぱり野郎は嫌いだわ…