第3章 タワーマンションの夜景
そのとき、悠一が低い声で切り込んだ。
「……で、何を落ち込んでたんだ?」
ナイフを置いて、真っ直ぐに見つめてくる。
その視線に、言葉が喉でつかえる。
(……隠せないよね)
唯は、深呼吸して口を開いた。
「実は……」
そして、契約ミスで家がないこと、引っ越しができなくなったこと、悪質なファンのこと――すべてを話した。
話を聞き終えた悠一の眉間に、深い皺が寄る。
「じゃあ、お前……今、住む場所ないんだな」
静かに、短く。
そのあと、小さな舌打ちが続いた。
「……一番腹立つのは、その悪質なファンだな」
唯「ちょ、ちょっと! 人をホームレスみたいに言わないでよ」
慌てて笑ってごまかしながら、グラスの水を一口飲む。
「で、どうするんだ?」
淡々とした声。でも、どこか苛立ちを含んでいる。
唯「……しょうがないから、親戚の家にお世話になろうかなって。」
視線を落として、少しだけ肩を落とす。
「この歳で親戚ににお世話になるのは、避けたかったけど……」
「――ここに住めばいいのに」
その声に顔を上げると、智和が穏やかに笑っていた。
「部屋、いっぱい余ってるし。全部屋防音だから、台本チェックもできるし、快適だよ?」
「……またまた」
冗談だと思って笑う。でも――
中村「冗談じゃない」
低い声。グラスの中の氷が、カランと鳴る。
沈黙が落ちたその空気を、智和が軽く変える。
「――とりあえず、今は飲もう」
そう言って、シャンパンのボトルを取り出した。
中村「杉田の言う通りだ。こういう時は飲まないとやってられないだろ?」
唯「……じゃあ、少しだけ」
そう答えたとき、胸の奥が妙にざわめいていることに気づく。
シャンパンがグラスに注がれる音。
悠一はコーラ。それでも、彼が自分のグラスにそっと手を添えてくれるだけで、心臓が跳ねた。
杉田「――じゃあ、再会に」
中村「……乾杯」
三つのグラスが、静かな音を立てて触れ合った――。