第2章 駐車場から始まる夜
アフレコスタジオの駐車場。
夜風がほんの少し冷たくて、街の灯りがガラスに映り込む。
ピッ――
軽い電子音とともに、車のハザードランプが点滅した。
唯「……え?」
振り向くと、杉田がポケットからスマートキーを取り出していた。
杉田「はい、どうぞ」
にやっと笑って、後部座席のドアを開けてくれる。
唯「……智和、車持ってたんだね」
素直に驚いて声が出る。
「なんか……イメージ的にバイクとか似合いそうなのに」
杉田「あー……昔はそうだったよ」
助手席のドアが開く音。
悠一が無言で乗り込みながら、軽くこちらを見た。
杉田「でも、神谷さん事故ったじゃん? バイクで。あれ見てから、やめた」その声は軽いけど、どこか真剣で。
唯(……そっか。ちゃんと考えてるんだ)
意外な一面に、ちょっと胸があたたかくなる。
後部座席に滑り込むと、杉田の車内は清潔感のある匂いで、ほんのり甘い香水が混じっていた。
運転席に杉田、助手席に悠一。
その横顔を見て――高校時代、ゲーセンの帰りに二人と歩いた夜道を思い出す。
(なんか……不思議。大人になったんだな、みんな)
エンジンが静かにかかる音。
夜景を映したガラスの中で、二人の声が響いた。
中村「なぁ……腹減った」
低い声。相変わらず、無駄な飾りがなくてかっこいい。
中村「どっかで食うか。……それか、買い物して家で食べよう」
杉田「お、いいね。何食べる?」
運転しながら、軽くウィンカーを出す。
中村「肉」
短く、即答。しかも、どや顔。
唯「ふふっ……相変わらずだね」
思わず笑ってしまう。
「でも、この時間お店混むでしょ? じゃあ……スーパー寄って」
二人の視線が同時にこっちに向く。
唯「特別に――私の特製ご飯、作ってあげる」
その瞬間、車内の空気がふわっと変わった気がした。
視線が絡んで、ほんの少しの沈黙。
次に響いたのは、杉田の明るい笑い声だった。
杉田「……やべぇ、悠一。久しぶりにご褒美きたな」
中村「……ああ。楽しみにしとく」
低く、短い言葉。でも、その声色に、ほんのり熱が混じっているようで――
胸の鼓動が、さっきより速くなった。
――この夜のことを、私はきっと一生忘れない。