第1章 第1章 アフレコ現場にて
そのとき、音響監督がスタジオに入ってきた。
「準備お願いします」
スタッフの声に、唯と神谷は立ち上がり、アフレコブースへと歩いていく。
◆ アフレコ開始 ◆
作品タイトルは 『エーテルガルド・クロニクル』。
魔法と剣が交錯する学園ファンタジーのオリジナルアニメだ。
ブース内に流れるのは、荘厳なBGM。
台本を握る唯 の指先に、自然と力がこもる。
「……この世界で、守りたいものがある!」
彼女の演じるのは、治癒術師アリア。無限の魔力を秘めながら、誰よりも優しい少女だ。
マイクの前で、唯は声を放つ。柔らかさと芯を同調させた一言に、「いいね、OK!」と音響監督の声が響く。
隣で、神谷が冷静な魔法剣士を演じ、
櫻井がクールな参謀、安元が豪快な戦士、宮野が自由奔放な王子を軽やかに演じていく。
坂本と沢城、水樹は、女騎士や魔女、聖歌隊の長――どの声も現場を圧倒する存在感だ。
(やっぱり、プロの現場は最高だ……!)
一瞬、悩みを忘れ、役に没入する。
収録が終わってスタジオを出た廊下で――
「……久しぶりだな」
背後から、懐かしい低音が響いた。
振り返ると、黒のラフな服を着こなした中村悠一と、
カジュアルながらセンスの光る服装の杉田智和が並んで立っていた。
「えっ……!? 二人とも!?」
驚きの声をあげる唯。
(まさか、こんなタイミングで再会するなんて……!)
胸が一気に高鳴る――物語は、ここから大きく動き出す。