第11章 逃れられぬ腕の中で
“迎えに行く”という文言が脳裏にこびりついて離れない。
忘れようとしても、言葉がナイフのように刺さり続けている。
女は両腕で自分の身体を抱きしめた。
まるで自分が小さく震えているのを認めたくなくて、強く力を込める。
けれどその震えは止まらない。
――どうしよう。
このまま1人で夜を過ごすのが怖い。
頭の中で何度も繰り返すうちに、スマートフォンに伸ばした手が震えていた。
沈黙に押し潰されそうな部屋の中。
テーブルの上に散らばった手紙を凝視しながら、女は身じろぎもできずにいた。
胸の奥ではざわざわと落ち着かないものが渦を巻いている。
――カシャン。
突然、耳をつんざくほど鮮明に響いた金属音。
女の心臓は喉元まで跳ね上がった。
反射的に顔を上げ、呼吸が止まる。
玄関からだ。
確かに今、郵便受けの蓋が開いて閉じた音だった。
凍りついたように固まったまま、しばらく耳を澄ます。
……誰かが家の前にいるの?
ぞわぞわと背中に冷たい汗が流れる。
足が勝手に竦むのを叱りつけるようにして立ち上がり、廊下を進む。
玄関に近づくにつれ、心臓の音ばかりが大きくなり足音すら掻き消してしまいそうだった。
恐る恐るドアの覗き窓から外を確認する。
――誰もいない。
街灯が照らす夜の道は、静まり返っている。
人影も、足音も気配すらない。
しかし確かに、郵便受けには新しい紙の端が覗いていた。
ごくりと唾を飲み込み、震える指で引き抜く。
白い便箋1枚。
封筒には入っていない。
慌ててリビングに戻り、明かりの下で文字を確認した。