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先生と生徒

第11章 逃れられぬ腕の中で


――“返せ”

――“裏切った”

――“お前は俺のものだろう”

殴り書きの文字が乱雑に並んでいる。

中には明らかに怒りでペン先を強く押し付けたのだろう、紙が破けそうなものもあった。

どれも短い言葉ばかり。

それなのに胸の奥をぐっと掴まれるように恐ろしく、吐き気すら込み上げてくる。

次の便箋をめくる。

――“笑ってる顔を思い出すと壊したくなる”

――“誰といる? 俺を馬鹿にするな”

――“いずれ迎えに行く”

ぞわりと鳥肌が腕に広がった。

封筒の数はざっと数えても15通以上。

しかも日付が違っている。

つまり、今日1度に入れられたのではなく数日に分けて投函されていたのだろう。

普段、忙しさにかまけて郵便受けを確認し忘れていたせいで溜まってしまったのだ。

それを知った瞬間、背筋が冷たくなる。

――すでに何日も前から、家の前まで来ていたということだ。

誰がやったのか。

考えるまでもない。

あの粘着質な執着、過去に浴びせられた言葉とまるで同じ。

元彼に違いない。

数日前、路地裏で無理やり腕を掴まれた記憶が鮮明によみがえる。

あのときの笑み、勝手な理屈……

“痴話げんか”なんて言葉で全てを片付けようとした卑怯さ。

胸がざわめき、全身の血が逆流するような気分になる。

「……最悪。」

小さく呟いてテーブルに突っ伏す。

呼吸が整わず、喉がからからに乾いていく。

今ここに、もし彼が現れたら――。

想像するだけで心臓が痛いほど跳ねた。

――助けてほしい。

頭の片隅に浮かぶのは、やはり悟や甚爾の顔だった。

強引で時に困らされることもある2人だけど、あの目と腕に抱かれているときだけは不思議と安心できる。

今すぐ電話したい衝動に駆られるが、時計を見るともう夜の10時を回っている。

迷惑になるかもしれない。

でも――。

また彼が来るかもしれない。

家の前に立って、郵便受けを覗き込んでいるかもしれない。

背後に視線を感じて、女は思わずカーテンを閉め切った。

息を潜め、静かな部屋の中で耳を澄ます。

外の車の音や、風の揺れる音までが不気味に思える。

心臓の鼓動が耳の奥で大きく響き、落ち着かない。

テーブルの上の便箋が視界に入る。
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