第11章 逃れられぬ腕の中で
甚「……そんな顔されて……もう離せねぇな。」
唸るような声と共に、最後の力を振り絞るように激しく動かされる。
視界が揺れ、意識が遠のく。
全身が熱に飲み込まれ、彼に支配される感覚しか残らなかった。
――そして。
甚「……っ、は……!」
低い呻きと共に、甚爾の身体が強張った。
奥へと深く押し込まれ、熱いものが一気に流れ込んでくる。
その熱量に身体が痙攣し、全身が溶けてしまいそうになる。
強く抱き締められ、逃げ場のないまま彼の鼓動を直に感じた。
耳元で響く荒い息遣いが、まだ嫉妬と欲望の余韻を含んでいる。
――彼は果てながらも、決して腕を緩めなかった。
まるで“もう離さない”と言わんばかりに。
甚「……俺のもんだ。2度と忘れんな。」
汗に濡れた額を合わせられ、低く囁かれる。
その言葉に胸の奥が熱くなり、涙が頬を伝った。
果てた後の静けさの中でさえ、彼の嫉妬と独占欲は確かに女の心を縛っていた。
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仕事を終えて家路に着く頃には、もう夜の帳が街を覆っていた。
昼間の暑さをまだ残すアスファルトの匂いに混じり、ひんやりとした風が頬を撫でていく。
玄関前に立ち、ポーチの灯りを点けると郵便受けの口から白い紙の端が幾つもはみ出しているのが目に入った。
普段はチラシか請求書程度しか入らないはずなのに、その日は妙に厚みを感じた。
鍵を回してドアを開ける前に、女は何気なく郵便受けを開いた。
――次の瞬間、ぞっと背筋を撫でられるような感覚が走る。
中に詰め込まれていたのは、十通近い封筒や便箋の束だった。
雑に折り曲げられ、無理やり差し込まれたせいで紙がよれている。
封筒には宛名も差出人も書かれておらず、ただ白い紙面に黒いインクだけが浮かんでいた。
その異様さに呼吸が浅くなる。
両手に抱えて玄関を閉め、靴を脱ぐことも忘れてリビングに入る。
テーブルの上に広げ1通、震える指で開いていった。