第10章 夜明けまで許さない
家までの道のり、会話はほとんどなかった。
ただ並んで歩くだけ。
けれど沈黙の中に、確かな熱と感情が溢れていた。
夜風が頬を撫でるたび、めいは隣にいる彼の存在を確かめるように視線を向けた。
甚爾は前だけを見て歩いている。
その横顔には、まだ消えきらない怒りと隠しきれない嫉妬が刻まれていた。
家の前に着いたとき、めいは立ち止まり彼を見上げた。
「……ありがとう。」
小さく告げると甚爾はしばらく黙ってから、ため息をついた。
甚「……オマエ、ほんと手ェ掛かる。」
そう言いながらも、その目はどこまでも優しかった。
玄関の鍵を回し、扉を開けると暗い室内の空気がひやりと流れ込んだ。
「ありがとう、ここまでで……。」
と口にしかけた言葉は、背後から伸びた大きな手に阻まれる。
ぐっと肩を掴まれ、そのまま玄関の内側へと押しやられた。
振り返れば、甚爾が低く目を細めてこちらを見ていた。
その眼差しは、さっき路地裏で見せたものよりもずっと濃く、どろりとした熱を帯びている。
嫉妬と苛立ち、そしてどうしようもない独占欲が混じり合った視線。
喉が乾くような圧に、思わず足がすくんだ。
甚「……なぁ、さっきのはなんだったんだ。」
押し殺した声。
静かに問い詰められるはずなのに、どこか切羽詰まった響きがある。
「な、なんでもない……。」
必死に笑ってごまかそうとするが甚爾の掌が頬に伸び、ぐっと掴んだ。
指先の力が強くて逃げられない。
無理やり顔を上げさせられ、視線が絡む。