第10章 夜明けまで許さない
甚「……チッ。しょうがねぇ。」
吐き捨てるように呟きながらも、甚爾はめいを抱き寄せる。
広い胸板に顔を押し付けられ、体の震えが止まらなくなる。
彼の匂いと体温に包まれると張り詰めていた心が一気に崩れて、嗚咽がこぼれた。
甚「泣くな。」
不器用な声。
でも、その大きな手がめいの頭を撫でる仕草は驚くほど優しい。
路地裏を抜けるまで甚爾はめいの肩をしっかりと抱き、誰も近寄らせない威圧を纏って歩いた。
横を歩くだけで、彼の存在が盾になってくれているのがわかる。
人通りのある道に出ると、めいはようやく少し落ち着きを取り戻した。
それでも震えは完全には止まらず、甚爾の手を離せなかった。
「……なんで、あそこに。」
恐る恐る問うと、彼はわずかに眉をひそめた。
甚「……偶然だ。けど見ちまったからには放っとけねぇ。」
短く答えながら、苛立ちを隠さない声色。
それがめいに向けられているわけではないとわかっていても、胸が痛んだ。
「ごめん……。」
呟いた言葉は、夜に溶けて消えそうになる。
すると甚爾は立ち止まり、めいを見下ろした。
甚「謝るくらいなら、最初からあんな奴に近づくな。」
「……。」
甚「オマエがどう思ってるか知らねぇけどな。俺から見りゃ、あんなのゴミだ。」
冷たく吐き捨てる言葉の中に、怒りと同じくらい濃い嫉妬が混じっていた。
めいの胸はまた強く揺さぶられる。
「……でも。」
反射的に反論しかけたが、甚爾の視線に射抜かれて言葉を飲み込む。
彼の瞳は真剣そのものだった。
甚「良いか。今からオマエを俺が送る。2度と、ひとりであんな目に遭うな。」
そう言って再び歩き出した甚爾の背中を追いかけるしかなかった。