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先生と生徒

第1章 誰にも言えない


1夜を共にする相手に対して、自然にできることなのだとしたら——。

「私は……どうして、こんなこと……。」

後悔、羞恥、戸惑い、そして罪悪感。

それらが雪崩のように押し寄せてきて、彼女の胸を押し潰していた。

ゆっくりと身体を起こす。

かすかに残る、彼の匂い。

昨夜に交わった熱の残り香が、ベッドと肌にまだ滲んでいた。

シーツを握る手に力が入る。

眠っている彼の顔に、無意識に目を向けた。

長い睫毛、穏やかな寝息。

起きている時の余裕ある笑みとは違って今はただの、静かな青年の寝顔だった。

こんなに近くにいたのに。

あんなにも深く繋がったのに——

なぜだろう。

心はどんどん、遠ざかっていく。

「……ごめんなさい。」

誰にともなく呟いて、めいはそっとベッドを離れた。

足元に転がっていたスカートを拾い、皺のついたブラウスを羽織る。

乱れた髪を簡単にまとめ、鏡を見ると目元は少し腫れていた。

まるで泣いた後みたいに。

けれど、涙は出なかった。

今の自分にそんな資格はない気がしていた。

音を立てぬようにバッグを拾い、ドアの前に立つ。

もう1度だけ、ベッドの上の五条を振り返る。

「……あなたに、言わずに帰るのは、卑怯だよね。」

けれど、起こすことはできなかった。

彼が目を覚ましてしまったら優しい言葉をかけられたら、きっと自分はまた逃げられなくなる。

それが怖かった。

だから彼女は何も言わず、そっと扉を開けた。

「……さようなら。」

その一言だけを、心の中で呟いて。
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