第9章 甘くて苦い
悟「そっか。泣いちゃったのは、俺のカッコよすぎる顔が原因ってわけね。」
「……は?」
悟「いや〜参ったなぁ。罪だよねぇ、俺。」
大袈裟に頭を掻きながら、わざとらしくため息をつく。
その調子に、思わずめいは呆れて笑ってしまった。
涙で濡れた頬が、ようやく少し軽くなる。
「……ほんと、悟ってそういうとこずるい。」
悟「ん? 褒めてる? それとも惚れちゃった?」
「……誰が。」
そっけなく返すと、悟は満足そうに笑みを深めた。
気づけば、さっきまでの張り詰めた空気はもうどこにもなかった。
めいの胸に残るざわめきは完全には消えていないけれど悟の調子外れな冗談と、どこか頼もしい存在感がそれを少しずつ溶かしていく。
ふと、悟がめいの肩にそっと手を回した。
悟「……送ってくよ。こんな夜道、1人じゃ危ないでしょ。」
「でも……。」
悟「良いの。俺がそうしたいだけだから。」
強引に聞こえるのに、不思議と拒めない。
めいは小さく頷き、悟と並んで歩き出した。
帰り道。
夜風が心地よく、街灯がところどころに淡い光を落としている。
人通りは少なく、聞こえるのは2人の足音だけ。
「ねぇ悟。」
悟「なに?」
「さっきの……すごく怖かった。」
正直に吐き出すと、悟は少し間を置いてから笑った。
悟「俺、優しいでしょ?」
「……優しいの基準おかしい。」
悟「いやいや、だってあのまま放っておいたらもっと泣かされてたでしょ? 俺、ヒーローじゃん」
軽口に呆れながらも、心の奥では否定できなかった。
確かに、あの時悟が来なければめいは……。
そう思うと、横にいる彼の存在がやけに大きく感じられる。
悟はポケットに手を突っ込み、歩幅を合わせてくる。