第9章 甘くて苦い
悟「ほらね。」
悟の笑みは深まったが、どこか冷たい。
彼の長い指がゆっくりとポケットから抜け出す仕草は、まるで“次の一手”を選ぶように思わせる。
悟「俺さぁ、女の子泣かせてる男、嫌いなんだよね。」
吐き出す声は軽い。
しかしその裏に潜むのは、相手を圧倒するほどの圧。
めいの背筋が震えたのは、悟に向けられた緊張のせいだけじゃなかった。
彼が――
めいのために怒っている。
その事実が胸を熱くする。
元彼は悟の気配に気づいたのか、ほんの一瞬だけ目を泳がせた。
だがすぐに強がるようにめいの頬へ指を滑らせ、無理やり顔を自分の方へ向ける。
彼「なぁ? お前も本当は……。」
「……っ!」
その瞬間、めいの体がびくりと震えた。
悟の笑みがふっと消えた。
サングラスの奥から覗く双眸がぎらりと光り、街灯の下で獣のような光を放つ。
悟「……離せって言ってんだろ。」
低く、鋭く。
普段の軽口とはまるで別人の声。
空気が一瞬にして凍りつく。
元彼の腕から力が抜けた。
思わずめいは後ずさりし、悟の背中に庇われるように立った。
その広い背は、まるで壁のように頼もしかった。
悟「痴話げんか? ……笑わせんなよ。」
悟の言葉は冷たく突き刺さる。
悟「彼女はな、オマエなんかに縋らなくても良い。……っていうか、今のオマエに触られて嬉しそうに見える?」
元彼は何か言い返そうと口を開いたが、悟の眼差しに射抜かれた瞬間、言葉を失った。
視線を逸らせない――
そんな圧倒的な存在感が悟にはあった。
沈黙の中、悟はふっと息を吐き、わざとらしく肩を竦める。