第7章 その手は逃がさない
昼休み、職員室で書類の整理をしていると、ふいに声をかけられた。
傑「先生、ちょっと良いかな。」
顔を上げると、扉のところに立っていたのは傑だった。
他の教師や生徒たちの目を気にしているのか彼は普段よりも静かな声で、しかし断る余地を与えないような調子で言葉を放っていた。
「……はい?」
胸の奥が小さく跳ねる。
何の用だろう、と頭では考えても彼の目に宿る真剣な色を見て嫌な予感しか浮かばなかった。
傑は視線だけで“来い”と促し、めいは仕方なく後をついていく。
向かった先は校舎の奥――
昼休みの時間には誰も立ち寄らない、薄暗い図書室だった。
扉を閉める音が響くと同時に、外界と切り離されたような静けさが広がる。
本棚が規則正しく並び、わずかに埃の匂いが漂うその空間で2人きり。
傑「ここなら誰にも聞かれない。」
傑が低く呟く。
その声音に、彼がただならぬ話を持ち出そうとしていることは明らかだった。
めいは無意識に喉を鳴らす。
「それで……何かご用でしょうか。」
声が思った以上に硬く響く。
傑は彼女をじっと見つめた。
笑みを浮かべてはいるが、その目はどこまでも冷静で鋭い。
傑「昨日……悟と、何かあった?」
一瞬、心臓が止まったような感覚に襲われる。
「……え?」
とぼけようとした声は震え、余計に不自然だった。
傑は1歩踏み込むように近づいてくる。
傑「君が隠そうとしてるのは分かってる。朝、悟の態度を見て確信したんだ。普段のアイツならあんな表情はしない。」
図書室の静けさに、彼の言葉だけが重く落ちていく。
めいは後ずさろうとしたが、本棚が背後にあって逃げ場はない。