第6章 背徳の鎖
悟「俺、ずっと見てたんですよ。先生が誰と話して、誰に笑って、誰に触れられてるのか……。なのに——よりによって甚爾先生?」
名前を吐き捨てるように言い、悟の手の力がわずかに強くなる。
それは怒りだけじゃなく、嫉妬と焦燥の入り混じった感情だった。
悟「……あの人といるとき、先生、俺に見せない顔してた。」
声が低くなり、耳元に近づく。
吐息が掛かり、鼓動が速まる。
悟は顎から手を離すと、代わりに両腕でめいの椅子の背を囲うようにして、完全に逃げ場を奪った。
悟「俺じゃ、ダメ?」
その言葉は、怒りと同時に切実さを帯びていた。
普段の軽薄さをかなぐり捨てた、素の悟の声。
しかしその奥には奪いたい、独占したいという衝動が透けて見える。
返事をする間もなく、悟はさらに近づき——
唇が触れる寸前で止まった。
悟「……甚爾先生と同じくらい、俺のことも見てよ。」
囁きは甘く、それでいて命令のように強い。
青い瞳に吸い込まれそうになりながら、めいはただ息を呑んだ。
悟の腕が、めいの背もたれの両側を塞いだまま動かない。
至近距離で見下ろされ、青い瞳がじわじわと熱を帯びていくのがわかる。
さっきまで冷たく突き放すようだった光が今は焦燥と苛立ち、そして別の感情で濁っていた。
悟「……アイツと何してたか、まだ言えないんだ?」
問いは責め立てるというより、確認するような響き。
めいが口を開こうとすると、そのタイミングを奪うように悟の手が頬に触れた。
長い指が耳の後ろに沿って髪をかき上げ、首筋をなぞる。
くすぐったい感触に、思わず小さく身を引く。
悟「逃げんなよ。」
低く、押し殺した声。
その瞬間、悟の片腕が背もたれからめいの腰へ回り、ぐっと引き寄せられる。
椅子の背と悟の胸の間に、めいの身体がすっぽりと挟まれた。