第6章 背徳の鎖
放課後の校舎は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
夕日が廊下の窓から差し込み、長い影が床をゆっくりと伸ばしていく。
足音がやけに響くのは、緊張のせいだろうか。
悟に呼び出された、行き先は——
空き教室。
扉の前で1度深呼吸し、ドアノブに手をかける。
ギィ、と重たい音を立てて開くと、そこにいたのは窓際に立つ悟だった。
背中越しに西日を浴び、白い髪が金色に縁取られている。
振り向いた青い瞳は、昼間よりもさらに冷たく光っていた。
悟「来たんだ、先生。」
その呼び方は、いつもと同じ響きのはずなのに、どこか刺がある。
悟はゆっくりと歩み寄り、扉の方へ回り込むと鍵をかけた。
カチリという音が、背筋をぞわりとさせる。
悟「座ってよ。」
言われるまま、教壇近くの椅子に腰を下ろす。
悟は机に片手をつき、めいの顔を真っ直ぐに覗き込んできた。
至近距離で見る瞳は静かな湖面のようでいて、その奥底に黒い渦が見える。
悟「……甚爾先生と、何してたの。」
名前を出された瞬間、心臓が跳ねる。
平静を装おうとしても、声がわずかに震えた。
「何って……別に——。」
悟「嘘は、やめようよ。」
遮る声は低く、いつもの軽さが欠片もない。
悟はめいの膝に手を置き、そのまま体重をかけるように身を寄せた。
その距離に、呼吸が乱れる。
悟「……あの人、先生の腰に手を回してた。」
その言葉に、頭の中であの日の光景がフラッシュバックする。
夜の街灯、甚爾の大きな手、耳元に落とされた低い声。
悟の視線はそれらをすべて暴き出すかのように鋭い。
悟「……それで? どこまでやったの。」
「悟——。」
悟「全部、話して。」
瞳が、射抜くようにめいを見つめている。
拒めば、そのまま逃げ場を塞がれるだろうという確信があった。
それでも、口を閉ざしてしまう。
沈黙が数秒続いたのち、悟は小さく笑った。
その笑みは冷たいが、どこか子供じみた怒りを隠しきれていない。
悟「……先生、俺がどう思ってるか、わかってる?」
その問いに答える前に悟はめいの顎を掴み、顔を上げさせる。
指先は驚くほど熱く、そして強い。
視線を逸らそうとしても、顎を固定されたまま逃げられない。