第6章 背徳の鎖
月曜日の朝。
週明けの空気は、廊下を歩く足取りまで重くする。
昨日までの休日の名残を引きずる生徒たちのざわめきが、教室の前まで近づくにつれ薄らいでいくように感じた。
それは——
中に漂う、何かぴりついた空気のせいだった。
ガラリ、と引き戸を開ける。
視界にまず飛び込んできたのは、窓際に腰掛けている悟の姿。
肘を窓枠に預け頬杖をつき、青い瞳はどこか遠くを見ている……
ように見えたが、その視線がすぐにこちらへ向いた。
——あ、機嫌が悪い。
それは一瞬でわかる。
普段なら軽い笑顔と共に“おはよ、先生”と声をかけてくるはずなのに、今日は無言のままじっと見ている。
その目に漂うのは冷たさとも、探るような光ともつかない重い感情だった。
「……おはようございます。」
職務的に挨拶をしても、悟は反応しない。
ただ片眉をわずかに上げ、視線を外す。
その横顔が、いつもよりずっと大人びて見えた。
黒板に今日の授業の予定を書きながら、背中に突き刺さるような視線を感じる。
チョークの粉が指先にまとわりつくたび、心臓の鼓動が早まっていく。
——どうしてそんな顔をしているの?
思わず振り返りたくなるが、ここで視線を合わせたら何かが崩れてしまいそうで前だけを向いた。
教科書を開き、生徒たちに指示を出す。
だが悟は動かない。
ノートも開かず、ただめいを見ている。
その態度に気づいた周囲の生徒たちがひそひそと囁くが、悟はまるで耳に入っていないようだった。