第5章 不埒な夜に堕ちて
エレベーターが静かに上昇する間、密閉された空間に2人の呼吸音だけが重なる。
甚爾は壁に片手をつき、めいを逃げ場のない位置に閉じ込めるようにして見下ろしていた。
視線が絡んだ瞬間、胸の鼓動が一気に早まる。
けれど彼は何も言わず、ただ口元に薄く笑みを浮かべるだけだった。
カチリと音を立てて扉が開き、廊下を歩く。
足音すら柔らかく吸い込む厚い絨毯の上で、彼の大きな背中を追う。
部屋の前で立ち止まった甚爾は、カードキーを差し込み無言で扉を押し開けた。
中は間接照明のオレンジ色が広がり空調の微かな音と、ほのかなアロマの香りが漂っている。
ドアが閉まると同時に、外の喧噪は完全に消えた。
甚「……座れ。」
低く短い声に従い、ソファへ腰を下ろす。
甚爾は、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
その影が近づくにつれ、息が詰まっていく。
そして目の前で立ち止まった彼が不意に膝を折り、視線の高さを合わせてくる。
その瞳が真っ直ぐに自分を射抜いた。
甚「……実はな、前からオマエのこと、好きだった。」
耳に届いた瞬間、時が止まったように感じた。
心臓が強く跳ね、思考が一瞬で白くなる。
彼は続ける。
甚「最初は興味本位だった。けど、一緒にいる時間が増えるほど……どうしようもなく欲しくなった。」
その声音は低く、しかし揺らぎがなく真剣だった。
手が頬に伸び、親指でゆっくりと肌をなぞる。
熱を帯びた指先に触れられるたび、理性が削られていく。
甚「……返事は?」
答えを促す声が、耳の奥を震わせる。
喉が渇き唇を開くのもやっとの思いで、かすかに頷いた。
その瞬間、距離が一気に詰まり、唇が重なる。
最初は柔らかく触れるだけの口づけだったのに次第に深く、舌を絡め取るほど激しくなる。
背に回された腕が強く引き寄せ、体の隙間が完全に消えた。
熱が伝わり、呼吸が苦しくなるほどの密着。
彼の手は迷いなく髪を撫で首筋をなぞり、やがて肩口へと滑る。
指先が肌に触れるたび、背筋が粟立つ。