第5章 不埒な夜に堕ちて
悟「へぇ~。甚爾先生、随分楽しそうじゃない。」
甚「オマエこそ、こんな時間に何やってんだ。」
甚爾の声は低く、しかし動じた様子は微塵もない。
悟は小さく肩をすくめる。
悟「パトロールみたいなもん。で、その子、どこに連れてくの?」
甚「具合悪そうだったから、休ませるだけだ。」
間髪入れずに返る甚爾の言葉。
その平然とした態度に、めいは一瞬、自分の方が嘘をついているような気分になる。
悟「ふーん……ホテルで?」
甚「外で座り込まれても困るだろ。……第1、オマエが連れて帰るよりマシだ。」
悟「へぇ、俺よりマシ?」
甚「そうだ。……オマエは見た目も怪しい。」
そのやり取りに、悟が吹き出した。
笑いながらも視線はめいを外さない。
悟「……ま、いっか。俺がとやかく言うことじゃないし。」
あっさりと言い、悟は手をひらひらと振って歩き去る。
ただし最後に振り返り、にやりと笑った。
悟「後で、詳しく聞かせてもらうよ。」
悟の姿が完全に見えなくなると甚爾は小さく息を吐き、もう1度めいの手首を引いた。
足元に伸びるホテルの入口の光が、やけに鮮やかに感じられる。
甚「……ほら、行くぞ。」
「……本当に、休ませるだけ?」
問いかける声が、自分でも驚くほど弱い。
甚爾は少しだけ口角を上げ、ゆっくりと頷いた。
甚「……オマエ次第だな。」
その言葉が耳の奥で響き、体温が急に上がる。
気づけば、ホテルの自動ドアの前に立っていた。
背後には人通り、前には暖かな照明と密やかな空気——
逃げ場はもうない。
そして、甚爾は当然のようにその中へ足を踏み入れた。
掴まれた手が離れることはなかった。