第5章 不埒な夜に堕ちて
ふと問われ、めいは一瞬答えを詰まらせた。
楽しんでいる——
けれど、それを素直に認めるのは、なぜか危うい気がした。
「……まぁ、少しは。」
甚「へぇ。じゃあ、もっと楽しませてやる。」
その言葉が、潮風よりも熱を帯びて胸に響いた。
港沿いの通りを離れ、繁華街のネオンが強くなるエリアに足を踏み入れた頃だった。
めいは手首を掴む甚爾の力が、さっきよりも僅かに強くなっていることに気づいていた。
「……そろそろ帰らないと——。」
そう言いかけた言葉は、彼の低い声に遮られる。
甚「帰したくねぇ。」
足を止め、真正面から見下ろしてくる視線は夜の闇に沈むほど深く熱を孕んでいた。
その一言に、胸の奥が不自然に跳ねる。
甚「まだ一緒にいたい。……ダメか?」
否定の言葉を探す間に彼は人混みを縫うように歩き出し、めいの腕を引く。
周囲の喧噪が遠のく頃にはラブホテル街特有の、やけに柔らかい光と甘ったるい匂いが漂う通りに立っていた。
「えっ……ちょっと……。」
足を止めても甚爾は振り返らず、無言で引き寄せる。
その背中に抗えず、半ば流されるようにして1歩踏み出した——
——と、その瞬間。
悟「あれぇ? 何してんの、こんなとこで。」
軽い声が背後から落ちてきた。
振り向くと、街灯の下に白髪の長身——
五条悟が立っていた。
片手をポケットに突っ込み、相変わらず人を食ったような笑みを浮かべている。
「悟……。」
思わず名を呼ぶと、悟の視線がこちらから甚爾へと移る。
その眼差しは笑っているのに、底に冷たい光が覗いていた。