• テキストサイズ

先生と生徒

第5章 不埒な夜に堕ちて


出かける準備をしている間も、心は落ち着かない。

昨日のことを頭の隅で引きずりながら、休日にこうして2人きりで出かける——

それはもう、ただの“送り届けてくれた人”とは呼べない関係に思える。

(……これって、デート……なのかな。)

否定すれば簡単だが、そう言い切るには彼の距離が近すぎる。

玄関を出るとき、自然に背中へ添えられる手。

信号待ちで、車道側に回るさりげない仕草。

どれも“付き合っている”わけではないはずなのに、胸をざわつかせる。

甚「……そんな顔して歩いてたら、連れ込みやすそうだな。」

急に甚爾がそんなことを言い、めいは慌てて顔を上げた。

「な……っ……!」

甚「図星か?」

口元だけで笑うその表情が、昨日よりも柔らかく見えてしまう自分が嫌だった。

酔いが抜けたはずなのに、また別の熱が頬を染めていく。




車に乗せられ、流れる景色を横目に行き先を問えば“ナイショ”と返ってくる。

助手席に座る距離感が近すぎて窓の外に意識を逃がしても、低い声が耳をくすぐる。

甚「そんなに落ち着かないか?」

「……別に、そんなこと……。」

甚「わかりやすいな。昨夜もそうだったけど。」

あえて口に出され、めいは小さく息を呑む。

何も返せず、ただシートベルトの留め具を指先で弄るしかなかった。







着いたのは、海沿いの小さな港町だった。

潮の香りと、日差しに照らされた水面がきらきらと輝く。

休日の人混みも少なく、ただ海と風の音だけが心地よく耳を撫でた。

甚「ほら、降りろ。」

甚爾が先に車を降り、めいの手を取る。

その掌は大きく、温かい。

強く握られるわけではないのに、抗えない引力がそこにあった。

(こんな……普通に手、つながれて……。)

歩きながら、道端の露店や港の景色を眺める。

海鮮を焼く香りや、波音が混ざった空気が心を緩めるはずなのに隣にいる男の存在がすべてを上書きしてしまう。

甚「……楽しんでるか?」
/ 127ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp