第5章 不埒な夜に堕ちて
昨夜の自分の行動を“酒のせいだけ”にできるほど、心は鈍感ではない。
むしろ、あのとき確かに求めてしまった。
その自覚が、2日酔いよりも重たく胸にのし掛かる。
ふと、甚爾の指先が微かに動いた。
まだ眠っているはずなのに、その手が布団越しに自分の腰に触れ自然と引き寄せてくる。
反射的に息を呑んだが、彼は相変わらず目を閉じたまま。
甚「……ん……。」
低く掠れた寝声が耳に届き、背筋がぞくりと震える。
あの声をもう1度聞きたくなる衝動と、逃げ出したい衝動が同時に押し寄せてきた。
(どうしよう……これ、絶対……普通じゃいられない。)
じっとしていると、彼の腕の重みや体温がじわじわと広がっていく。
まるで“逃がさない”と無言で告げられているようで、心の奥が妙にざわつく。
昨夜の熱が、まだ完全には冷めていない——
それを認めた瞬間、めいはもう自分の顔から火照りが引かないことを悟った。
甚「……んー……。」
低く唸るような声と共に、隣の男がゆっくりと目を開けた。
寝起きの瞳はまだ半分ほど眠たげで、だがその奥には夜の記憶を全て覚えている男の余裕が漂っている。
甚「おはよ……顔、赤いな。2日酔いか?」
笑いながら伸びをし、片腕を伸ばしてめいの腰をぐっと引き寄せる。
拒む間もなく、額に軽く唇が触れた。
「ひ……っ……ちょっと……。」
甚「何だよ、まだ恥ずかしがってんのか?」
彼は楽しそうに目を細め、こちらの反応をまるで観察するかのようにじっと見つめてくる。
その視線に耐えられず、めいは布団を押さえたままそっと視線を逸らした。
「……今日が……休みで良かった。」
甚「ああ、そうだな。で——。」
そこで甚爾は急に笑みを深めた。
甚「せっかくだから、遊び行くぞ。」
「えっ?」
甚「決まり。着替えろ。」
言うが早いか彼は布団をめくり、すっと立ち上がる。
その背中の広さと、まだ残る昨夜の余韻が視界に入り、めいは慌ててシーツを胸元まで引き寄せた。
「ま、待って……どこに行くの?」
甚「んー、行き先は着いてからのお楽しみだな。」
彼はまるで気分転換でもするかのような軽さで笑い、洗面所へ向かった。
めいはその背を見送りながらも、胸の鼓動が妙に落ち着かないのを感じていた。