第5章 不埒な夜に堕ちて
甚「言ったな……もう止めねぇぞ。」
そこから先は、獣と獲物のようだった。
部屋の壁が震えるほどの衝動、肌がぶつかり合う音、淫らな水音、そして何度も何度も名前を呼ぶ声。
女は何度も果て、甚爾も堪えきれずに彼女の奥へと吐き出した。
ふたりの熱と息が混ざり合い、ようやく訪れた静寂の中で女は甚爾の胸に顔をうずめた。
甚「……酔い、冷めたか?」
「……うん。でも……もっと酔ってたい。」
甚爾は苦笑しながら、その髪を優しく撫でた。
甚「なら、もう1回、酔わせてやるよ。」
その夜、互いの体温が冷めることはなかった。
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薄いカーテン越しに差し込む朝の光が、じわりと瞼を刺激した。
頭の奥で鈍い痛みがじんじんと広がっている。
口の中は乾ききり、昨日飲んだアルコールの名残がまだ体内を漂っているのがわかる。
「……うぅ……。」
額に手を当て、重たい身体を少しだけ起こそうとした瞬間——
すぐ横から、微かな寝息が聞こえた。
反射的に首を向ける。
そこには、無防備に眠る伏黒甚爾の姿があった。
呼吸に合わせてゆっくり上下する胸。
髪は寝癖で少し乱れていて、昨夜の熱を帯びた空気が嘘のように穏やかな表情をしている。
毛布から覗く腕や肩の線が逞しく、その存在感が同じベッドの中で圧倒的に主張していた。
(……な、なんで……。)
問いかけるまでもなく、記憶は少しずつ蘇ってくる。
飲み会の帰り、送ってもらって……
自分から引き留めた。
——あの瞬間の自分の声の震えや彼の目の光までが、やけにはっきりと思い出せる。
(だめだ……思い出すと、余計に……。)
頬が熱くなり、心臓がどくどくと早鐘を打ち始める。
視線を逸らそうとしても、どうしても彼の顔に引き寄せられてしまう。
眠っているはずなのに昨夜と同じ、少し意地悪な笑みを浮かべているように見えた。
その唇が近づき耳元で囁かれた低い声が、また頭の奥でこだまする。
“……後悔すんなよ。”
シーツの感触と、まだ肌に残る熱が、生々しく昨夜を証明している。
体を覆っているのは自分の寝間着——
だが、その下に何も身につけていないことに気づいた瞬間、息が詰まった。
(わたし……本当に……。)
枕元の時計を見ると、13:30。
起こすべきか——
思考が定まらない。