第5章 不埒な夜に堕ちて
そしてアルコールと香水と女の体温が混じった、妙に甘い空気が漂っていた。
潤んだ瞳で甚爾を見上げている。
「……もうちょっと、一緒にいてくれない?」
さっきまで笑っていた女の表情には酔いの色が濃く浮かび、まぶたは半ばとろんと落ちている。
彼女の声はどこか甘く、絡みつくようだった。
わざとか、無意識か。
甚爾の喉が、ごくりと鳴る。
甚「オマエ、酒入ると面倒くせぇな。」
「……私が、誘ってるってわかってるくせに。」
女はゆっくりと体を傾け、甚爾の肩に頭を預けてきた。
その柔らかな髪が彼の首元をかすめ、香りがふわりと鼻先をくすぐる。
「ねえ……伏黒先生。家、寄ってく? 酔い冷めるまで、一緒にいてよ。」
その言葉に、男の中で何かが静かに蠢いた。
理性の鎧をまとっていた男が、一瞬、揺らいだ。
甚「……マジで、後悔しても知らねぇぞ。」
「……しない。……しないようにするから。」
どこか熱に浮かされたような声。
女の唇が、頬をなぞるように近づいてくる。
その温もりに、甚爾の中のタガが外れる音がした。
気づけば、甚爾は女の腕を掴んで引き寄せていた。
彼女を抱き寄せ、乱暴に唇を奪う。
舌が絡み、互いの熱がむせ返るようにぶつかり合う。
甚「部屋、どこだ。」
「2階の……右奥……。」
甚「……本当に良いのか?」
「“送ってもらうだけ”なら、部屋の前で十分だった。」
その一言に、甚爾の中の“我慢”が限界を超えた。
エレベーターの中では、ふたりとも無言だった。
けれど、ただの沈黙ではない。
呼吸の奥に、熱がゆっくりと満ちていく音が聴こえるようだった。