第4章 2人きりで
甚「……オマエが来るって聞いたから。」
短く、素っ気ない声。
けれど、それが思っていた以上に真っ直ぐな言葉だったから心臓が跳ねた。
「……でも、さっきの話題、何も言わなかったよね。」
甚「言う必要、あったか?」
「……。」
言葉に詰まる。
言われてみればそうだ。
でも、本当は——
「……ちょっとは、何か言ってほしかっただけ。」
その呟きに甚爾はグラスを置いて、こちらを初めて真っ直ぐ見た。
その瞳には、笑いも飾りもない。
甚「……オマエが、そういうふうに俺の言葉を求めてくれるって思ってなかった。」
「……なんで。」
甚「……俺は、オマエに“似合わない”と思ってたから。」
めいはその言葉の意味を、咀嚼するように受け取った。
(“似合わない”って……。)
甚「でもな。」
甚爾は低い声で続けた。
甚「その目で、俺を見つめてるオマエ見てたら……正直、今すぐどっか連れ出したくなる。」
その声が、彼女の耳にだけ届くように小さく低く響いた。
甚「……でも、飲み会だからな。……我慢してんだよ、今。」
めいは目を見開いたまま、言葉が出なかった。
その時、周囲の席がまた動き始め“2次会どうする?”という声が飛ぶ。
甚爾は席を立ち、軽く振り返って言った。
甚「……めい、送ってく。」
その言い方は誰にも疑問を挟ませないほど自然で、確信に満ちていた。
めいは、小さく頷いた。
胸の奥に渦巻いていた疑問も、戸惑いも、すべて——
彼のたったひと言で、音もなく沈んでいくのを感じた。