• テキストサイズ

先生と生徒

第4章 2人きりで


金曜の夜。

教職員の定例の“暑気払い”と称された飲み会は、駅近くの居酒屋で開催された。

集まったのは十数名。

教務主任や各教科の教員たち、それに加えて最近着任しためいや、なぜかあまり参加しない伏黒甚爾の姿もあった。

先「……よく来たね、伏黒先生。」

幹事の中堅教師が少し驚いたように言うと、甚爾はタバコを耳にかけたまま、気怠げに言った。

甚「たまには顔出さねぇと、どこかで悪い事してるとか思われそうだからな。」

その場が一斉に笑いに包まれる。

あくまで軽口。

だが、その場の空気に不思議と馴染んでしまうのが彼の“らしさ”でもあった。

めいは隣の女性教師と談笑しながらも、ちらちらと斜め向かいに座る甚爾の様子を窺っていた。

(……何だったんだろう、あの日。)

五条悟と一緒に帰ろうとしていた夜。

突然現れた彼は“送る”と言って彼女を連れ出し、あの場から引き剥がした。

それは——

まるで、“所有権の主張”のようだった。

(……でも、私たち、何も始まってない。彼と、そういう関係じゃ……。)

心が交わったわけではない。

むしろ彼は、なぜあんなふうに私を選ぶのかも、一言も説明していない。

——そして今日も甚爾は隣の男性教師とくだけた話をしながら、めいのほうを一切見てこない。

まるで、何もなかったように振る舞っている。

(……何を考えてるの?)

その疑問が、胸に残るまま。

先「めい先生、ビールのおかわりいきます?」

「え? あ、はい……すみません。」

他の教師に声をかけられ、彼女は微笑を浮かべながらグラスを差し出す。

周囲の会話は和やかに盛り上がっていた。
/ 127ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp