第4章 2人きりで
金曜の夜。
教職員の定例の“暑気払い”と称された飲み会は、駅近くの居酒屋で開催された。
集まったのは十数名。
教務主任や各教科の教員たち、それに加えて最近着任しためいや、なぜかあまり参加しない伏黒甚爾の姿もあった。
先「……よく来たね、伏黒先生。」
幹事の中堅教師が少し驚いたように言うと、甚爾はタバコを耳にかけたまま、気怠げに言った。
甚「たまには顔出さねぇと、どこかで悪い事してるとか思われそうだからな。」
その場が一斉に笑いに包まれる。
あくまで軽口。
だが、その場の空気に不思議と馴染んでしまうのが彼の“らしさ”でもあった。
めいは隣の女性教師と談笑しながらも、ちらちらと斜め向かいに座る甚爾の様子を窺っていた。
(……何だったんだろう、あの日。)
五条悟と一緒に帰ろうとしていた夜。
突然現れた彼は“送る”と言って彼女を連れ出し、あの場から引き剥がした。
それは——
まるで、“所有権の主張”のようだった。
(……でも、私たち、何も始まってない。彼と、そういう関係じゃ……。)
心が交わったわけではない。
むしろ彼は、なぜあんなふうに私を選ぶのかも、一言も説明していない。
——そして今日も甚爾は隣の男性教師とくだけた話をしながら、めいのほうを一切見てこない。
まるで、何もなかったように振る舞っている。
(……何を考えてるの?)
その疑問が、胸に残るまま。
先「めい先生、ビールのおかわりいきます?」
「え? あ、はい……すみません。」
他の教師に声をかけられ、彼女は微笑を浮かべながらグラスを差し出す。
周囲の会話は和やかに盛り上がっていた。