第4章 2人きりで
甚「俺は、“男”としてじゃなく、“大人”として送ってくって言ってんだよ。」
悟を見ずにそう言った甚爾の横顔には、どこか諦めにも似た静けさがあった。
それが逆に、悟の胸をざわつかせる。
悟「……アンタさ。」
悟の声が低くなる。
悟「前からそう。……欲しいもんは力で奪う。それ、変わってないよね。」
甚「そういうオマエこそ、ただ見てるだけしかできない癖にな。」
刹那。
1歩間違えれば火花を散らすような空気が、3人の間に流れる。
めいはとっさに間に割って入った。
「……もう良いから。今日は……送ってもらう。」
悟がその場で動きを止めた。
ほんの数秒、彼女を見つめたあと少しだけ視線を逸らして笑う。
悟「……そっか。じゃあ、また明日。」
声は軽い。
けれど、その背中にはいつになく深い影が落ちていた。
彼女が甚爾と並んで歩き去っていくのを、悟は一言も発せずに見送った。
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しばらく歩いた後、めいは口を開いた。
「……さっきの、なんだったの?」
甚「さぁな。」
甚爾はタバコに火をつけて吸い、煙を空に吐いた。
甚「ただ……アイツに全部持ってかれるのが、癪だっただけかもな。」
「……私のことで、何か言いたいの?」
甚「いや。……言うなら、言葉より、行動だ。」
そう言って彼は歩を緩め、めいの前に立つ。
甚「……何かあったら、いつでも呼べ。アイツとどうなってようが関係ねぇ。」
彼女の瞳に戸惑いが浮かぶ。
甚爾は構わずその目を見つめた。
甚「オマエが誰のもんになるか、まだ決まってねぇだろ?」
夜の風が、2人の間を静かに吹き抜ける。
——そして遠くで白い髪の男が校門の柱に寄り掛かりながら、その様子を黙って見ていたことに、ふたりは気づいていなかった。
悟の目は笑っていなかった。
その瞳は、確かに“奪われた”ことを悟っていた。