第4章 2人きりで
甚「帰るんか、ふたりで」
悟「そうだけど、なに? 見送りに来てくれたの、甚爾先生?」
悟が軽く肩をすくめ、いつもの調子で笑う。
だがその目元だけは、警戒心を隠そうともしなかった。
甚「——悪いが、めい先生は、俺が送ってく。」
悟「……は?」
一瞬、時間が止まったようだった。
めいが思わず悟の顔を見上げる。
彼は目を細めたまま数秒の沈黙を挟んだのち、口角を引き上げた。
悟「……急にどうしたの、伏黒先生。“彼女”は俺と一緒に——。」
甚「帰る途中だったんだよ、って言いたいんだろうけどな。……そう見えたから止めに来た。」
甚爾は1歩、こちらへ踏み出す。
その足音が、夜の静寂を切り裂いた。
甚「めい先生、家……この近くだよな。送るのに都合が良い。……ついでに話もしたい。」
「……話?」
めいが困惑したように眉をひそめると、彼は口元だけで笑った。
甚「ま、教師として、な。」
その視線が意味深に光る。
悟が前へ出た。
悟「ちょっと待とうか。彼女は“俺と話してた”んだ。割り込むの、マナー悪いんじゃない?」
甚「……オマエが言うなよ、その面で。」
低く呟いた甚爾の声に、空気が張り詰める。
どちらも1歩も引かない。
その間に立つめいは、どうすれば良いか判断に迷っていた。
「……私、別にどっちでも……。」
そう口にしかけたとき、甚爾が先に動いた。
彼女の腕を、さりげなく取る。
甚「こっち。……良いから。」
その手には力がこもっているわけではなかった。
だが、不思議と逆らえない“押し”があった。
「待って、伏黒先生——。」