第4章 2人きりで
悟「……教室でも言ったけど、俺、君が他の男と仲良くしてんの、我慢できないんだよ。」
廊下に出たところで、彼はふと呟くように言った。
その言葉の意味を、めいはまだ完全に理解できていなかった。
けれど——
それが、ただの“独占欲”じゃないことを本能的に感じていた。
(……この夜が、終わらなければ良いのに。)
扉の奥、誰もいない研究室の中。
蛍光灯の明かりがまだ残っていたが誰もいなくなった部屋は、ただ静かに沈んでいた。
夜の校門を出た頃には、空はすっかり群青に染まり始めていた。
校舎から漏れる灯りも消え、夏の終わりを告げる虫の声だけが耳に残る。
「少し、風が出てきたね。」
めいがそう言うと隣を歩いていた五条悟は、ちらりと彼女の横顔に目をやる。
悟「うん。……でも、悪くないよ。君と一緒なら。」
軽口のように響いたその言葉には、しかしどこか本気が滲んでいた。
彼の歩幅に合わせて歩きながら、めいも少し頬を緩める。
夜の静けさが、ふたりの距離を自然と縮めていく。
職場という枷が緩み、ただ“男と女”として存在できる短い時間。
「ねぇ、悟。」
悟「ん?」
「……さっきの話、もう少しだけ聞かせてくれる?」
悟「もちろん。いくらでも。」
まるでこれが“始まり”のような、そんな温度のある視線を交わしたときだった。
甚「おい、悟とめい。」
低く、どこか呆れたような声が路地の陰から響いた。
足を止めたふたりの前に現れたのは、黒シャツにジーンズ姿の伏黒甚爾だった。
相変わらずだらしない服装なのに、その存在感は夜の闇に溶けず、むしろ強く浮かび上がっていた。
「……伏黒先生?」
めいが少し驚いた声を上げると甚爾はタバコを指で弾いて火を消し、視線を悟に向けた。