第4章 2人きりで
研究室の扉をノックしたあと、めいは一瞬だけ躊躇した。
けれど悟からのメッセージが、まだ胸の中で熱を帯びている。
小さく深呼吸し、ドアノブを回す。
「……入るよ。」
悟「どうぞ~。って、もう入ってるか。」
扉の向こうにいた五条悟は、相変わらずの調子で振り向いた。
けれど、その目元に浮かんだ光は言葉とは裏腹にどこか安堵を滲ませていた。
白い髪は少し乱れていてサングラスを外したまま机に座っていた彼は、どこか疲れたような表情もしていた。
悟「来てくれて、ありがと。」
その声には、ふざけた響きはなかった。
「……メッセージ、見たから。」
めいは静かに部屋に入り、扉を閉めた。
研究室は静かで、冷房の風の音だけがわずかに耳に残る。
蛍光灯の明かりが、ふたりの間に淡い影を落とす。
「……で、話って?」
悟は立ち上がり、机の横にある椅子を引いて示す。
悟「座ってよ。別にすぐ帰れって言うわけじゃないし。」
「そうは言っても、校内だし……。」
悟「消灯まではまだ時間あるって。」
軽く肩をすくめるその仕草に彼女は息を吐いて、椅子に腰を下ろした。
ほんの少しだけ、緊張の糸が緩む。
悟「……俺さ。」
唐突に、悟が口を開く。
その声は珍しく、迷いを含んでいた。
悟「この数日、君のことばっか考えてた。……おかしいよね。先生と生徒なのに。」
めいの心臓が跳ねる。
「……私にとってもこの関係は特別。でも……。」
悟「でも?」
「……職場だし、教師としての責任もある。簡単に……続けられることじゃないって、思ってる。」
悟「俺は逆だよ。」
悟はためらいなく言った。