第4章 2人きりで
傑「けどね、めい先生。……先生のその目も、なかなかに危ういですね。」
「……危うい?」
夏油はふっと笑った。
傑「悟に惹かれるのは、誰だって仕方ない。でも……アイツは、誰よりも深く入り込んでくる。先生がそのつもりじゃなくても、気づけば、全部染まってしまう。」
その声は、どこか悲しげだった。
(この人は、悟のことを……。)
傑「先生は“壊れる”タイプじゃない。……でも、壊されることに、気づかないかもしれない。」
めいは無言で彼を見つめた。
「……じゃあ、どうすれば良いんですか?」
傑「悟に、嘘をつかないこと。それだけで良いです。」
夕日がゆっくりと沈みかけていた。
夏油は静かに彼女の横を通り過ぎ、背後から軽く声をかけた。
傑「研究室、あそこを左に曲がったところですよ。……悟、先生のこと待ってると思います。」
その声には、どこか優しさが滲んでいた。
彼女はゆっくりと頷き、歩き出す。
背中に残るのは、静かな視線。
けれどその視線は、どこか悟と同じ温度を持っていた。
(……私、どうなっていくんだろう。)
そんな問いが胸を過ぎる。
けれど、足は止まらなかった。
たとえ“壊される”としても——
今は、もう戻れない。
そして、研究室の前。
彼女はゆっくりと扉の前に立ち、深呼吸をひとつ。
ノックする指先が、小さく震えていた。