第3章 優しい暴力
傑「私は、アイツの昔からの友人なんだ。だからこそ気になる。」
夏油の声が1段と低くなる。
傑「君の何が……彼の心を動かしたのか。興味があるんです。」
「……そんな大したことはないです。ただ……流れで。」
傑「“流れで”1夜を共にした相手を、悟が数日経っても気にするような性格だったかな?」
彼女の顔から血の気が引いた。
(……まさか。)
彼の目が静かに細められる。
傑「大丈夫、悟は何も言ってないですよ。だけど……アイツの目を見ればわかる。あの日から、君に“執着”してる。」
「……。」
夏油はゆっくりと廊下を歩き、めいの前に立つ。
窓から差す夕日が、彼の頬を淡く照らす。
傑「私はね、悟のそういう“歪み”が嫌いじゃない。普段はあんなに万能ぶってるくせに、心の奥じゃ……人間らしい。」
その瞳が、彼女の奥底を覗き込むように揺らいだ。
傑「先生も、そう思ってるんじゃないですか?」
めいは返せなかった。
反論も、肯定もできない。
ただ、胸の奥で何かが静かに揺れていた。
「……夏油君は。」
沈黙のあと、彼女は口を開いた。
「私に何を言いたいんですか?……悟君と関わるなと?」
傑「いや、違いますよ。」
意外にも、夏油は否定した。
傑「むしろ、関わってやってほしいと思ってます。」
「え……?」
傑「先生みたいに、ちゃんと“感情で動く人間”が、アイツの傍にいるのは悪くない。……そう思ってるんです。」
その言葉には、どこか苦味があった。