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先生と生徒

第3章 優しい暴力


甚「オマエと話したあと、やけに黙りこくってた。アイツが“黙る”って、珍しいだろ?」

めいは答えなかった。

何も返せなかった。

甚「……だからまぁ、一応言っとくわ。」

甚爾はタバコを指先でくるくる回しながら、ふと彼女の横に立つ。

甚「もし、アイツに何かされたなら……遠慮なく言えよ。俺が、ぶん殴ってやるから。」

その言葉は冗談のようで、本気にも聞こえた。

思わず彼女は顔を上げて、彼の横顔を見た。

彼の瞳は、どこまでも真っ直ぐで、そして静かに優しかった。

「……あなたって、本当に不器用ですよね。」

ぽつりと呟くようにそう言うと、彼は不意に笑った。

甚「今さらだろ?……でも、オマエもだいぶ無理してる。」

その一言が、胸に刺さる。

甚「……好きな奴に振り回されるのって、結構きついよな。」

彼の低い声に、めいは小さく息を呑んだ。

(どうして、わかるの……。)

まるで彼には全部見透かされているようだった。

職場では冷静に平然と振る舞っているようで心の奥は、五条悟のことでいっぱいになっていた。

「……ありがと。」

そう言って小さく会釈すると、甚爾は軽く手を挙げて背を向けた。

甚「ま、何があっても……誰かに頼れよ。教師だって、独りで抱える必要はねぇんだから。」

その言葉を最後に、彼はゆっくりと廊下を歩き去っていった。

めいは、その背中をしばらく見送っていた。

口には出さなかったが心の奥では、どこか救われたような気持ちになっていた。

そして、ポケットの中のスマホが微かに震える。

【今、戻った。……まだ会える?】

悟からのメールだった。



胸がまた、きゅっと締めつけられる。

(……会わなきゃ。ちゃんと、自分の気持ちを伝えないと。)

彼女は深く呼吸をし直し、再び足を踏み出した。

その瞳には、揺れる感情の中でもしっかりとした決意が宿っていた。

——このままじゃ、終われない。
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