第3章 優しい暴力
甚「おう、めいじゃねぇか。」
飄々とした声。
だがその奥にある眼差しは、どこか鋭さを含んでいた。
「伏黒先生……お疲れさまです。」
咄嗟に1歩引いて頭を下げる。
自然に振る舞ったつもりだったが、胸の内には微かな焦りが走っていた。
甚「……こんな時間に、どこ行くんだ?」
その質問は、まるで探るようだった。
だが口調は柔らかく目元には、ふっと笑みすら浮かべている。
「……ちょっと、用事があって。研究室のほうへ。」
甚「ふぅん……。あの白髪のとこか?」
その言葉に、めいの肩がわずかに跳ねたのを甚爾は見逃さなかった。
甚「何だ、図星か?」
「……いえ、ただの、職務の話です。」
努めて冷静に返す。
けれど彼の目線は、彼女の声の震えや指先の緊張にすら気づいているようだった。
甚「ま、別に良いけどよ。……ただ、あいつ今いねぇよ。」
「……え?」
甚「30分くらい前に、外出た。急に“用事できた”とか言って、いつものチャラい笑顔でな。」
めいの胸の中で、期待が音を立てて崩れる。
(……出かけた?話がしたいって言ったのに……。)
顔には出さないようにしたが、ほんのわずかに落ちた視線と沈んだ呼吸に甚爾は肩をすくめた。
甚「……何か、あんのか?アイツと。」
直球だった。
言い逃れもできない、真正面からの問い。
「……別に。」
即答した声は、少しだけ強がりだった。
甚「……アイツは変わってねぇよ。誰にでもニコニコして、でも本心はめったに見せねぇ。」
その言葉は、五条を長く知る者だからこその重みがあった。
甚「でも——オマエの前では、ちょっと違ったな。」
「……?」