第3章 優しい暴力
悟(アイツにだけは、渡せない。)
集会が終わり、生徒たちが解散し始めた。
めいは何かの書類を手に、甚爾と並んで校舎へと戻っていく。
五条はその背中を、遠くから黙って見送った。
──ただの挨拶。
──ただの仕事の話。
そう言い聞かせようとすればするほど、心の奥底が軋んだ。
やがて彼女の姿が校舎に消えたあと、五条はその場にひとり残っていた。
風がサングラスの隙間から吹き抜ける。
悟「……オマエ、そういう顔もできるんだな。」
誰にも聞こえないように、小さく呟いた。
思い出すのは、あの夜、何度も彼女の身体に触れながらも最後まで見せてくれなかった表情。
それが、今——
他の男の前で自然に出ているのを見せられた。
痛いくらいの敗北感。
悟「めい……俺だけのもんじゃ、なかったのか。」
心の奥で、ぐしゃりと何かが潰れた音がした。
けれど、ただ悔しいだけじゃない。
この感情は、明らかに——
執着だ。
彼女が他の男と親しくしているだけで、こんなにも苛立つ自分がいる。
彼女の笑顔が自分以外に向いているだけで、押し倒して口づけてしまいたくなる。
そんな欲望を、五条悟はとうに知っていた。
だが今日、それが想像よりも深く根を張っていたことに気づかされた。
悟(……“もう良いや”なんて、言えるわけないじゃん。)
彼は静かにサングラスを外した。
冷たい光を宿した瞳が、ゆっくりと空を見上げる。
悟(このまま黙ってるわけ、ないだろ。)
たとえ彼女が誰かと笑い合っていたとしても。
たとえそれが、同じ“教師”だったとしても。
悟「……そんなもん、引き剥がせば良い。」