第1章 誰にも言えない
悟「おい、手を離せ。……俺の連れなんだけど?」
その一言に、男は一瞬ひるんだ。
五条の存在感、それはただの一般人のものではない。
圧倒的な"余裕"と"力"を纏った男の気配に酔いが一気に醒めたのだろう。
男「な、なんだよ……関係ねぇだろ……っ!」
悟「関係あるよ。だって、これから一緒に過ごす予定なんだし。」
五条がサングラス越しに笑みを浮かべながら彼女の肩を抱き寄せた瞬間、男は舌打ちしてその場を去っていった。
めいの身体が、僅かに震えていた。
彼女の頬には涙の跡、胸元のブラウスは乱れ、香水と冷や汗が混ざった甘い匂いが漂っていた。
悟「大丈夫?」
「……ありがとう、ございます……。」
五条は彼女の耳元に顔を寄せた。
悟「震えてるね。怖かった?」
「……少し、だけ。」
悟「じゃあ、俺と来る?怖いことはしないよ。たぶん。」
その冗談めかした囁きに、めいは戸惑いながらも小さく頷いた。
彼女の瞳はまだ怯えていたが、それでも五条の腕の中にいれば安心だと思ったのか身を預けてきた。
──そして2人は静かにタクシーに乗り込み、繁華街の外れにあるホテルへと向かった。
シンプルな内装のラブホテルの1室。
鍵が閉まる音と同時に、静寂が降りる。
めいはソファに腰を下ろし、落ち着かない様子で指先を弄んでいた。
悟「ほら、お水。緊張してるでしょ?」
五条がペットボトルを差し出す。
彼の声は優しく、まるで少女をあやすようだった。
「……優しいんですね、意外。」
悟「よく言われる。見た目チャラいからね、俺。」
「……でも、助けてくれて……本当に、嬉しかった。」
彼女の声はかすかに震えていた。
五条はその様子をじっと見つめ、そしてゆっくりと彼女の隣に腰を下ろす。
距離は近い。
膝と膝が触れるほど。
めいが視線を落とすと、五条の長く美しい指がそっと彼女の手に触れた。