第2章 秘密の関係
悟「学校の話じゃないよ。」
「……そうですか。なら、私は——。」
踵を返そうとした瞬間、彼の腕が伸びた。
壁際に近かった背を、逃がさぬようにそっと押さえる。
悟「ちょっと待って。……逃げるの?」
「触れないでください。」
悟「本当に?俺に触れられるの、……そんなにイヤ?」
耳元で、わざと囁くような声。
彼の吐息が、うなじに触れた。
鳥肌が立つ。
違う意味での“拒否”ではなかった。
「……ここは、学校です。」
悟「うん。わかってるよ。だから我慢してた。ずっと、君が“教師”として頑張ってるの、横で見てたから。」
その言葉には、いつもの軽さがなかった。
悟「でもさ、限界なんだ。……俺の知らない顔で笑ってるのを見ると、……どうしても“俺だけの君”を思い出して、止まらなくなる。」
そのまま彼の手が、めいの頬に触れる。
反射的に身を引こうとするが、背中は壁。
逃げ道はどこにもない。
「私たちは、もう関係ないはずです。あの夜は……1度だけのことで、だから私は——。」
悟「忘れたつもりでしょ?」
低い声で割り込まれる。
悟「じゃあ、もう1回、確かめてみる?」
「……っ!」
彼の手が腰へと滑り、ぐっと引き寄せられる。
制服越しの体温が近すぎる。
肌が触れあわないはずなのに、何故か熱が伝わってくるようで——
「やめ、て……。」
悟「本当に、やめてほしい?」
甘く、執拗な囁き。
彼の唇が彼女の耳朶にかすかに触れた瞬間、めいの膝から力が抜けそうになる。
悟「……うそ。身体は……ちゃんと覚えてるよね。」
彼の手がスカート越しに太ももをなぞる。
その触れ方はまるで、初めてではないと知っている人間のそれ。
“どこを触れれば、彼女がどう反応するのか”——
五条はすべてを知っていた。
「……ここじゃ、ダメ……っ、見つかったら……。」