• テキストサイズ

先生と生徒

第2章 秘密の関係


夜「今日は、新しい副担任の先生を紹介するぞ。」

夜蛾先生に連れられて、初めて教室の扉を開けたとき——

その瞬間。

彼女の呼吸は、確かに止まった。

その教室の中に、彼がいたのだ。

五条悟。

白い髪、身長のあるスラリとした体躯。

あの夜、何度も自分を甘く貪った男がそこにいた。

(……嘘……なんで……。)

心の中で、呟きすら声にならなかった。

——逃げたのに。

——忘れたかったのに。

よりによって、なぜ彼がここにいるのか。

その理由を考えるより先に、彼の鋭い視線がこちらに向いた。

彼女と目が合ったその瞬間、五条の表情がふっと動いた。

驚きの色を一瞬浮かべた後すぐに、にやけたような笑みに変わる。

(——最低。こんな時に、なんで笑うの……。)

心が軋んだ。

記憶が、身体が彼の熱をまだ覚えていた。

それをすべて“なかったこと”にしたくて逃げ出したのに。

しかし、ここで動揺を見せるわけにはいかない。

彼女は深呼吸をし、口元に仄かな微笑を湛えて前へ出た。

「日向めいです。本日より副担任としてこちらに勤務いたします。皆さんと過ごす時間を大切にしていきたいと思っています。よろしくお願い致します。」

教科書通りの、完璧な挨拶。

その中に感情は一切ない。

無色透明に仕上げた声と表情。

だが、その内側では嵐のように感情が吹き荒れていた。

(落ち着いて……私は“教師”としてここに来た。あの人が、そこにいたとしても——関係ない。)

生徒たちが拍手をし、彼女は軽く頭を下げた。

五条悟は片手をポケットに突っ込み相変わらず飄々とした態度で、だがどこか目を離さず彼女を観察するような視線を向けていた。

(視線を感じる……嫌なほど、じっと……。)

だが、彼女は1度も彼の方を見なかった。

あの夜のことを知る唯一の男。

その存在が同じ場所にいるというだけで、心臓は引きちぎれそうなくらい緊張していた。
/ 127ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp