第13章 絡まる心と体
街灯の下、ふたりは立ち尽くしていた。
さっきまで頬を濡らしていた涙はようやく収まりつつあったが、胸の奥はまだざわめきに支配されていた。
悟の温かい手が肩に残っているだけで、女は不思議なほど落ち着きを取り戻していた。
沈黙を破ったのは悟だった。
悟「……そういえば、僕さ。」
彼はわざと軽く言うようにけれど、どこか誇らしげに笑った。
悟「教師になったんだ。」
「……教師に?」
女は目を見開き、言葉を繰り返すしかなかった。
あまりにも突然で、現実味のない告白に思えた。
悟「そう。まぁ、いろいろあってさ。やっと、なりたかった自分になれたって感じ。」
肩を竦めて言う悟の笑顔は、昔と同じように眩しかった。
夜の街灯に照らされた横顔は柔らかく、けれど確固とした自信を宿していた。
女は喉の奥が詰まりそうになる。
――自分は、失ってばかりだ。
大切な仕事も、信じた人も、そして居場所さえ。
そんな中で、彼は夢を叶えていた。
その差が胸に刺さる。
悟「……でも、なんで泣いてたの?」
悟が真っ直ぐに問いかけてくる。
女は一瞬目を逸らし、言葉を探した。
嘘をつこうと思えばつけた。
けれど、彼の視線は逃げ場を与えてくれなかった。
「……彼氏と、喧嘩したの。」
やっと絞り出した声は小さく、震えていた。
悟は眉をひそめた。
驚きと、納得と、そして何か別の感情が入り混じったような表情だった。
悟「彼氏……そうなんだ。」
声がわずかに掠れる。
女は慌てて言葉を継ごうとした。
けれど、悟の視線に射抜かれて次の言葉が出なかった。
沈黙の、のち悟がゆっくりと口を開いた。
悟「……僕さ、ずっと言えなかったけど。」
その声音は、街の雑踏をすべて遠ざけてしまうほど真剣だった。
悟「まだ、めいのことが好きなんだ。」
女の心臓が跳ね上がった。
忘れたふりをしていた感情が、一瞬で蘇る。