第13章 絡まる心と体
頭の中で赤い警告が点滅するように鳴り響き、息が詰まった。
必死に声を張り上げようとした瞬間――
悟「……ちょっと待てよ。」
低く、けれどはっきりとした声が背後から響いた。
男が振り向くと、街灯に照らされた長身の青年が立っていた。
白いシャツにゆったりしたパンツ、片手をポケットに突っ込んだまま鋭い視線だけをこちらに向けている。
男「なんだ、てめぇ。」
悟「そっちこそ……夜中に女の子泣かせて、無理やりって、どういうつもり?」
吐き捨てるような口調なのに、不思議と余裕を纏った声音。
その眼差しは冷たく、鋭く相手を射抜いて離さない。
女の胸が一瞬強く鳴った。
――この声、この姿勢。
まるで、あの時と同じだった。
初めて助けてくれた、あの瞬間と。
男「関係ねぇだろ!」
悟「関係あるんだよ。……僕の知り合いだから。」
悟は淡々とそう言った。
まるで当然のことのように、女の腕を掴む男へ1歩踏み出す。
その動作だけで酔っ払いの男はたじろぎ、足を引いた。
悟「離せよ。今すぐ。」
男「ちっ……。」
舌打ちと共に、乱暴に腕が放り出される。
女はよろめきながらも自由を取り戻し、その瞬間、悟の手が自然に彼女の肩を支えていた。
悟「大丈夫?」
見下ろす瞳が、どこまでもまっすぐで。
女は声を失い、ただ小さく頷いた。
涙で濡れた頬を見ても悟は何も言わず、ただその存在だけで守ってくれるように隣に立っていた。
酔っ払いの男は舌打ちを繰り返しながら背を向け、夜の街へ消えていく。
残されたのは、夜風とふたり分の鼓動だけ。
悟「……偶然だな。まさか、こんなところで会うなんて。」
悟の声は、どこか照れたようで、けれど懐かしい響きを孕んでいた。
女の胸に込み上げるものがあった。
助けてくれた安堵、そして過去の記憶と重なってしまう心の震え。
「……悟。」
絞り出すように名前を呼ぶと彼は少しだけ目を丸くし、やがてふっと笑った。
悟「最初は気づかなかった。……でも、助けられてよかったよ。」
初めて出会ったあの日と同じように。
いや、それ以上に胸を熱くさせるその笑顔に女はまた涙を零してしまう。
悟は何も言わず、ただ肩を抱いたまま泣き顔を隠すようにそっと寄り添ってくれた。