第13章 絡まる心と体
胸の奥に隠していた温もりが、形を取り戻してしまう。
悟「馬鹿みたいでしょ。時間なんて経ったのに、僕だけ変わってない。」
悟は小さく笑う。
けれどその瞳は笑っていなかった。
必死に抑え込みながら、それでも溢れ出る想いを隠せずにいた。
悟「……ねぇ、一緒に逃げない?」
その言葉は、冗談ではなかった。
彼の差し伸べられた手が、夜の街灯の下で白く輝いて見えた。
悟「もう全部投げ出して良いんだよ。泣かされて、傷つけられて、我慢して……そんな場所に、めいを閉じ込めたままにするなんて嫌なんだ。」
声は震えていた。
けれど、強い。
悟「僕と一緒に行こう。逃げ出して……めいが笑える場所、作りたいんだ。」
女の呼吸が浅くなる。
目の前の手を見つめ、胸の奥で何度も言葉が渦を巻いた。
――だめだ。
――でも、この手を取ってしまいたい。
今まで積み上げてきたものが壊れてしまう。
だけど、もう壊れているのではないか。
彼氏との関係は愛ではなく支配だった。
未来を思い描くことすらできず、ただ耐えていた日々。
悟の瞳には、そんな自分を赦すような温もりがあった。
「……でも、私……。」
女の声は涙で途切れた。
答えを出す勇気が持てない。
悟は彼女を責めなかった。
ただ静かに待っていた。
手を差し伸べたまま、少しも動かずに。
悟「返事は、いらないよ。」
不意に、柔らかい声が降りてきた。
悟「ただ、僕がめいを連れて行きたい。それだけだから。」
女の視界が涙で滲む。
抗う気力は、もう残っていなかった。
気づけば、その手に指先が触れていた。
温かかった。
懐かしくて、涙が溢れそうになるほどに。
「……悟。」
小さく名を呼んだ瞬間、悟の手が彼女をしっかりと包み込む。
悟「行こう。」