第13章 絡まる心と体
夜の街は、吐き捨てられた言葉の余韻をまだ纏っていた。
彼「俺じゃないとダメだろ。」
――そんな決まり文句を何度も浴びせられ、いつしか反抗することすら力を失っていたはずだった。
けれど、その夜はほんの些細なことで彼と言い争いになり張り詰めていた心の糸がとうとう切れてしまった。
気が付けば、女は玄関の扉を乱暴に開けて外へ飛び出していた。
冷たい夜風が肌を撫で、胸の奥に絡まる痛みを少しだけ和らげてくれる。
だが歩けば歩くほど涙が滲み、視界は揺れ嗚咽が漏れた。
「……もう、いやだ。」
頬を伝う涙を拭っても拭っても止まらず、女は街灯に照らされた歩道で立ち尽くした。
人通りの少ない時間帯、遠くで笑い声が響く。
カップルの影が寄り添って通り過ぎるたび、胸に鋭い痛みが走った。
そんな時だった。
男「お嬢ちゃん、泣いてんの?」
酒臭い声と共に、ふらつく足取りの男が近寄ってきた。
くすんだジャケットに赤ら顔、目はどろりと濁っている。
女は慌てて身を引いたが、男はにやりと笑って腕を伸ばしてきた。
男「こんなとこで泣いてたら、慰めてやりたくなっちまうだろ?」
「……やめてください。」
振りほどこうとするが酔いの勢いを帯びた力は意外に強く、女の細い腕をがっしりと掴んだ。
無理矢理肩を抱き寄せられると、鼻を衝くアルコールの臭いが絡みついて吐き気を催す。
男「ちょっと、ホテル行こうぜ。どうせ寂しいんだろ?」
「嫌っ……!」
女の抵抗など意に介さず男は腕を回して強引に歩かせる。
繁華街のネオンが近づき、ラブホテルの派手な看板が視界に飛び込んできた。
胸がぎゅっと縮み、足が震える。
――このまま連れ込まれる。