第13章 絡まる心と体
退職してから、女はずっと家に籠っていた。
朝起きても出勤の支度をする必要がなく、カーテンの隙間から射し込む光はどこか冷たく感じられた。
外のざわめきは遠く、自分だけが取り残されているようで時間が止まったように思える。
ベッドの上でぼんやりと天井を見上げていると、ふいに玄関のチャイムが鳴った。
「……。」
心臓が一瞬大きく跳ねる。
こんな時に訪ねてくるのは誰だろう――。
もしかして、甚爾か。
あるいは悟か。
それとも、生徒の誰かが心配して来てくれたのかもしれない。
わずかな期待が胸を締めつけ、女は思わず立ち上がった。
足取りはぎこちなくも早まり、ドアに手をかける。
カチャリと鍵を外し、扉を開ける。
彼「よぉ。」
目の前に立っていたのは、元カレだった。
女の体から一気に力が抜ける。
浮かびかけた希望が、重く冷たい絶望に変わって胸の奥に沈んでいった。
「……どうして。」
掠れた声で問いかけると元カレは口の端を吊り上げ、意地悪そうに笑った。
彼「ちょっとな。あの手紙……俺が送ったんだ。」
女の瞳が大きく見開かれる。
「……え?」
彼「うそを混ぜて、お前を困らせてやろうと思っただけだったんだよ。ほんとに生徒と関係持ってるなんて思ってなかった。」
彼の声には皮肉な驚きが混じっていた。
「……。」
彼「でもさ……当たっちまったな。お前、ほんとにそういうことしてたんだ。」
わざと低く囁くように言い、女の頬に触れる。
女は反射的に後ずさる。
「やめて……。」
彼「やめろ?お前が拒めると思ってるのか?」
彼は1歩踏み込んで女の顎を指で持ち上げ、視線を絡める。
彼「俺には、結局かなわないんだろ。」
その瞳に捕らえられると、抗う言葉が喉に詰まる。
心のどこかで彼を求めてしまっている自分がいることを、女は痛いほど自覚していた。
「……っ。」
元カレの唇が強引に重ねられる。