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先生と生徒

第13章 絡まる心と体


数日後――。

朝の校舎は、いつもと変わらぬざわめきに包まれていた。

教室に響く生徒たちの笑い声、廊下を走り抜ける足音、遠くで鳴るチャイム。

だが女の胸の内は、まるで別世界のように冷え切っていた。

机の上には封をした退職届が置かれている。

書類に自分の名前をしたためたとき、胸の奥でかすかな痛みが走った。

“これで良いんだ”と何度も心の中で繰り返す。

だが、その言葉は空回りし心の深部ではどうしようもない喪失感が膨らんでいく。

午前中、学長室を訪ね静かにその封筒を差し出した。

学長は短く頷き、それ以上は何も言わなかった。

ただ、無言の重さが女にとって何よりも苦しかった。

――すべてが終わったのだ。

そう思うと足取りは重く、けれども後戻りはできない。

職員室に戻り、自分の机に積まれた資料や文房具をひとつひとつ段ボールに詰め始める。

授業で使ったプリントの束、赤ペン、付箋、教え子から渡された小さな手紙やプレゼント。

どれもがここでの日々を証明するようで、箱に入れるたびに心臓を締めつけられる。

「……。」

指先が止まる。

生徒から貰った小さなキーホルダーを手に取り、しばらく見つめた。

その明るい笑顔を思い出してしまうと、胸に鈍い痛みが走る。

だが、今の自分にはもうこの場所に残る資格はない。

無言のまま、女はまた荷造りを再開した。

段ボールが2つに増えたころ、職員室のドアが開く音がした。

そして聞き覚えのある声が、静かに背後から響いた。

甚「……もう行くのか?」

振り返らずとも分かった。

低く、どこか投げやりなようでいて本当は気遣いを含んだ声。

――甚爾だ。
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