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先生と生徒

第13章 絡まる心と体


「……遠慮してるの?」

甚「……俺は……。」

甚爾はしばし沈黙した。

普段なら迷わず踏み込む彼が、今はどこか距離を取ろうとしている。

甚「お前を守るのは当然だ。……けど、踏み込みすぎたら、壊しちまう気がしてな。」

低く呟いた声は、不器用な優しさを滲ませていた。

彼女の胸は締め付けられるように熱くなる。

涙が浮かびそうになるのを堪え、ただ小さく頷いた。

2人の間には言葉にできない温もりが漂い、静かな夜がゆっくりと流れていった。







────────────────

学長室に足を踏み入れた瞬間、空気がひりついているのを肌で感じた。

静かに閉じられたドアの向こう側で、女は深呼吸をひとつしてから顔を上げる。

机の奥に腰かける学長の表情は硬く、その前に1枚の封筒が置かれていた。

夜「急に呼び出して悪いな。」

低い声が響く。

「いえ……。」

女は椅子に腰を下ろす。

心臓が鼓動を速めているのを感じながら、視線は自然とその封筒に向かった。

学長は指先でそれを軽く叩き、目を細める。

夜「差出人不明で、宛名もなく届いた。…だが、内容が内容だ。無視はできない。」

封筒から取り出された紙を机の上に広げられると、黒々とした文字が目に飛び込んできた。

――この教師は、生徒と不適切な関係を持っている。

――放課後に一緒にいる姿を何度も見た。

――肉体関係があることも知っている。

――教育者として相応しくない。処分すべきだ。

ぞくりと背筋が震えた。

手紙に記された言葉が、胸の奥に鋭い杭のように突き刺さる。

夜「……これは、事実なのか?」

学長の視線が、まっすぐに女を射抜く。

声を発しようとしても喉が渇いて言葉が出てこない。

震える指先を膝の上で握りしめ、必死に息を整えようとする。

否定すれば簡単なはずだった。

だが、否定の言葉は喉の奥で固まって動かない。
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