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先生と生徒

第13章 絡まる心と体


中にはいくつかの食材があった。

卵、野菜、少しの肉。

簡単な料理ならできそうだ。

甚爾は最初、黙って見ていたが、やがて低く呟いた。

甚「……別に気ぃ遣わなくて良い。」

「遣わせて。……さっきは、本当に怖かったから……甚爾が来てくれて、助けてくれて……ありがとう。」

彼女の真剣な瞳に射抜かれ、甚爾は黙り込む。

目を逸らし、ソファに深く座り直した。

台所で彼女は慣れた手つきで調理を始める。

包丁の音、油の香ばしい匂い、煮込みの湯気。

どこか家庭的な空気がリビングに広がる。

「もうすぐできるから、ちょっと待っててね。」

甚「……あぁ。」

短い返事の裏で、甚爾は心のどこかが落ち着かないのを感じていた。

さっきまで怒りに燃えていた胸の奥が、今は妙にざわついている。

やがて食卓に並べられた料理は、彩りもよく温かい。

肉と野菜の炒め物、味噌汁、小鉢。

どれも素朴だが心を込めて作られたものだった。

「いただきます。」

2人で手を合わせると、ほっとするような空気が漂った。

甚爾は黙々と箸を進める。

普段の無骨な姿からは想像できないほど、料理を丁寧に口へ運んでいた。

甚「……うまいな。」

ぽつりと零れた言葉に、彼女は思わず笑顔になる。

「良かった……甚爾、あんまりそういうこと言わないから……。」

甚「言わなくてもわかんだろ。」

照れ隠しのように視線を逸らす甚爾。

その仕草に胸が温かくなる。

食卓には穏やかな時間が流れ、さっきまでの恐怖が嘘のようだった。

2人で交わす些細な会話が心を和ませ、彼女は少しずつ笑顔を取り戻していく。

食後、温かいお茶を淹れてソファで並んで座った。

湯気の立つ湯呑みを手に取りながら、彼女はふと甚爾の横顔を見つめる。

「……本当にありがとう。甚爾がいてくれて、安心した。」

そう告げると、彼の表情が一瞬揺れた。

だがすぐに顔を背け、天井を見上げる。

甚「……礼なんかいらねぇ。」

「でも……。」

甚「……俺は、そういうの、慣れてねぇからよ。」

言葉を濁しながらも彼の耳が赤く染まっているのを見て、彼女は胸がくすぐったくなる。
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