第13章 絡まる心と体
甚爾は彼女の顎を軽く指で持ち上げ、涙で濡れた瞳を覗き込む。
甚「お前は、俺の傍で怯えてりゃいい。それで十分だ。」
言葉は乱暴だが、その奥には彼女を守ろうとする強い意志があった。
彼女はその眼差しに胸がいっぱいになり、溢れる涙を拭おうともせずに小さく頷いた。
甚爾はため息をつき、くしゃくしゃに握り潰した手紙をポケットに突っ込んだ。
甚「風呂、沸いたぞ。入ってこい。……俺は外で待ってる。」
背を向けてそう言う彼の声は、怒りを押し殺しながらも優しさを滲ませていた。
彼女はその背中を見つめながら、小さく
「ありがとう。」
と呟いた。
だがその背中の奥に潜む怒りの炎が静かに燃え上がっていることを、彼女も感じ取っていた。
湯船に身を沈め、彼女はようやく心と体の震えを落ち着かせていた。
お湯の熱に包まれ、強張っていた筋肉が少しずつ緩んでいく。
頭の中には、さっき甚爾が見つけた手紙のこと、そして彼が怒りを押し殺しながらも優しくしてくれたことが交互に浮かんでいた。
「……甚爾……。」
その名前を呟くと、不思議と胸が温かくなった。
恐怖と不安の渦中で、唯一の拠り所になってくれている存在。
彼がいなかったらどうなっていたかと考えると、背筋がぞっとした。
十分に温まってから浴槽を出て、タオルで髪と体を丁寧に拭く。
お気に入りの部屋着に着替えたとき、ようやく自分を取り戻した気がした。
リビングに戻ると――
甚爾はソファに腰掛け、腕を組んでテレビを眺めていた。
足を投げ出し、まるで自分の家のように寛いでいるが、その存在感は圧倒的だった。
甚「……上がったか。」
彼が視線をこちらに向ける。
その鋭い眼差しに一瞬緊張したが、口元が僅かに緩むのを見て胸の奥が和らぐ。
「うん……ありがとう。……甚爾、待っててくれたんだ。」
甚「当たり前だろ。置いて帰れるわけねぇ。」
言葉はぶっきらぼうだが、その声色には確かな安心感があった。
彼女は小さく笑みを浮かべる。
「……何か食べる?」
甚「……ん?」
「お礼したいの。甚爾、きっと何も食べてないでしょ?」
そう言ってキッチンへ足を運び、冷蔵庫を開ける。