第12章 執着の果てに
甚爾は振り返り、ソファに崩れ落ちている彼女へ再び駆け寄る。
膝をつき、涙を流す彼女の肩を抱き寄せる。
甚「……悪かった、遅くなって……怖かったな。」
その声は、さっきまでの苛烈なものとは打って変わり驚くほど柔らかい。
彼女はその胸に顔を埋め、堰を切ったように泣き出した。
甚爾の手は優しく背中を撫で続ける。
怒りと安堵と、どうしようもない優しさが入り混じった空気の中で彼女はただ泣き続けるしかなかった。
リビングにはまだ重い空気が残っていた。
ソファに座り込んだ彼女は甚爾の胸に縋りつくようにして泣き疲れ、やっと呼吸が落ち着いてきたところだった。
甚「……立てるか。」
甚爾は彼女の頬を親指で軽く拭いながら、低い声で尋ねる。
泣き腫らした瞳で小さく頷くと彼は無言で立ち上がり、彼女の肩を抱えてゆっくりと歩かせた。
甚「身体、冷えてるだろ。風呂、入れ。」
「……でも、甚爾……。」
甚「良いから。余計なこと考えずに、まずは落ち着け。」
強い口調だったが、そこに怒気はなく、ただ彼女を気遣う不器用な響きがあった。
浴室へ向かう途中、甚爾は洗面所に入って蛇口をひねり浴槽へお湯を溜め始める。
彼の大きな背中越しに水音が心地よく響き、張り詰めていた空気が少しずつ緩んでいく気がした。
甚「……着替えは?」
「寝室のクローゼットに……。」
彼女が答えると甚爾は頷き、タオルを取り出してからリビングへ戻った。
その時だった。