第2章 秘密の関係
最寄りの駅に着いたころには、太陽が昇り始めていた。
空は徐々に明るくなり、昨日までと変わらない朝が始まっていく。
ただ1つだけ違うのは、自分の中に刻まれてしまった存在。
彼の声。
彼の熱。
彼の目。
そして、あの腕の中の安心感。
それらすべてが今も心と身体に残っていて、忘れようとしても忘れられなかった。
「……バカだな、私……。」
誰にでもない言葉が、ぽろりと唇から零れた。
それでも足は止まらない。
昨夜のことは、なかったことにしよう。
自分があの部屋にいたことも、五条の腕の中で乱れたことも——。
だけど、きっと。
あの温もりは、一生消えない傷のように彼女の中に刻まれ続けるだろう。
あれから数日が経った。
五条悟は何も変わらない日々を送っていた——
表面上は、だ。
冗談を飛ばしながら飄々と過ごしている。
だが誰にも言わないだけで、あの夜のことはずっと頭の片隅に残っていた。
彼女。
名前すら知らないはずの女。
路地裏で助けてホテルで交わり、そして——
朝、黙って消えた女。
五条の人生で、女に逃げられることなど滅多になかった。
ましてや自分が本気で追いかけたいと思うほどの相手に去られたことなんて、1度もない。
悟「……あの子、今頃どうしてるのかな。」
そんな呟きも、気づけば何度繰り返しただろう。
そして、その日——
運命のように、再会は訪れた。
教室。
朝のホームルーム前、生徒たちがざわめく中で、夜蛾先生の声が静かに響いた。
夜「今日は、新しい副担任を紹介する。しばらく我が校で研修として勤務してもらうことになった。」
その瞬間、教室のドアが開いた。
カツン、とハイヒールの音が床を打つ。
その音と共に現れたのは——
紛れもなく、めいだった。
彼女は落ち着いた紺色のスーツに身を包み、髪はきちんとまとめられていた。
表情は凛としていて数日前に五条の腕の中で何度も喘いでいた女とは、まるで別人のように見えた。
「日向めいです。今日から副担任としてお世話になります。どうぞ、よろしくお願いします。」
彼女は落ち着いた声でそう挨拶し、生徒たちに軽く頭を下げた。
五条は、唖然としたまま立ち尽くしていた。